卵巣嚢腫ってどんな病気?
卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)というのは、卵巣腫瘍(らんそうしゅよう:卵巣にできたできもの)の中でも良性のものであり、卵巣腫瘍のおよそ8割から9割を占めています。
腺組織(せんそしき:分泌物をだす組織)に出来る腫瘍のため、腺管の出口が塞がれてしまうことで袋のように膨らみ、中に多量の液体が溜まっている状態になります。
「風船に水を溜めた状態」を思い浮かべていただきますと想像がつきやすいでしょう。
卵巣嚢腫は、卵巣の中に溜まってしまった内容物によって、以下の3つに種類分けがされます。
漿液性嚢腫(しょうえきせいのうしゅ)
黄色い透明なサラサラとした液体が溜まってしまっている状態です。手のこぶしくらいの大きさの球形の腫瘍になります。
粘液性嚢腫(ねんえきせいのうしゅ)
ネバネバとした粘り気のある液体が溜まってしまっている状態です。かなり大きな腫瘍になることも多く、粘液がお腹の全体に広がってしまうこともあります。
皮様嚢腫(ひようのうしゅ)、成熟嚢胞性奇形腫(せいじゅくのうほうせいきけいしゅ)
皮脂や毛髪、脂肪、歯、軟骨などが溜まってしまっている状態です。直径10センチ以下の小さめの腫瘍ですが、左右両方の卵巣に発生することもあります。また、20代から30代といった若い世代に多く、妊娠中に発見されることもあります。
女性の体内のホルモンは卵巣から分泌されて、毎月排卵が起こるために盛んに細胞分裂がおこなわれます。ですので、特に卵巣は腫瘍が出来やすい部位なのです。
卵巣嚢腫は良性ではありますが、悪性の卵巣腫瘍との判別が難しいということ、ひどくなるまで症状がほとんど出ないという特徴も御座いますので、きちんと検査を受けることが大切です。
各卵巣嚢腫の写真
■どんな症状が起こる?
卵巣嚢腫は「silent tumor(直訳で症状が乏しい)」と言われることもあり、初期の段階ですとほとんど症状があらわれないという特徴があります。
しかし、腫瘍が大きくなるにしたがって、ウエスト周りが大きくなり今まで穿いていたパンツやスカートが穿けなくなってきたり、下腹部や片側の腹痛、便秘や頻尿、性器からの出血などがあらわれてきます。
また、卵巣嚢腫の根本がお腹の中で捻じれてしまい血液が流れなくなり嚢腫が壊死を起こしてしまっている状態である茎捻転(けいねんてん)になってしまった場合には、炎症が強くなるため下腹部に急激な激しい痛みが生じます。
また、充実成分(固形の成分)で出来たしこりのような硬さのある良性の充実性腫瘍の場合には、男性ホルモンを作り出すことが稀にあり、ホルモンのバランスが崩れてしまい多毛や筋力発達など身体が男性化してきたり、すでに閉経しているのに再出血があらわれることも御座います。
腫瘍のサイズがかなり大きくなってから腹部膨満感が強くなり、ようやく気付き発見が遅れがちになることも多い病気ですので、定期的に検査を受けておくことが大切です。
また、上記に挙げたような症状を感じた場合には、早めに婦人科を受診するようにしましょう。
症状をまとめると・・・
・今まで穿いていたパンツやスカートが穿けなくなる
・下腹部や片側の腹痛
・便秘
・頻尿
・性器からの出血
・下腹部に急激な激しい痛み
・多毛
・閉経しているのに再出血
痛みに苦しんでいる女性のイラスト
■症状の現れ方
卵巣嚢腫で気をつけなくてはならないのが、自覚症状がほとんどないために知らない間にどんどん腫瘍が大きくなってしまうということです。ある程度の大きさになってから初めて症状が出てくることがとても多いのです。
このような症状があれば注意
腫瘍が大きくなるにしたがって、下腹部が膨れたような下腹部膨満感が出てくることがあります。しかし、体型が変わったのかな?と思って見過ごしてしまうこともあるでしょう。
他には下腹部痛があったり、大きくなった腫瘍が他の臓器を圧迫することで便秘や頻尿などを引き起こすこともあります。
このような症状が続くようでしたら、一度婦人科を受診されることをオススメいたします。
要注意の症状をまとめると・・・
・下腹部が膨れたような下腹部膨満感
・下腹部痛
・便秘、頻尿
急激に現れることがある症状
卵巣嚢腫の根本(ねもと)が捻れてしまっている茎捻転といった症状を起こしてしまっていたり、腫瘍が大きくなりすぎてお腹の中で破裂してしまい内容物が漏れてしまったという場合には、突然強い腹痛が現れます。
また、通常であれば卵巣がんの場合に現れる腹水や胸水が卵巣嚢腫(卵巣線維腫)でも見られることもありますが、手術にて卵巣嚢腫を摘出することで無くなります。
急激に現れる症状をまとめると・・・
・突然の強い腹痛
・腹水や胸水
■卵巣嚢腫の原因は?
卵巣嚢腫の原因は、卵巣嚢腫の種類によって異なります。
基本的なことではありますが、毎日の食生活など生活習慣の乱れ、ストレスなど精神的な問題によって女性ホルモンのバランスが崩れてしまうことが要因になることもありますので、規則正しい生活を心がけるということも大切です。
成熟嚢胞性奇形腫の場合
胎児が発生する時点で細胞が卵巣の中で腫瘍を作ってしまうことが原因となります。
卵巣嚢腫の半分以上を占める発生頻度であり、若い方(お子さまでも有りえます)からご高齢の方まで年齢を問わず発症する可能性があります。
子宮内膜症性卵巣嚢腫の場合
月経が起こるときに卵巣の内部で子宮内膜が増殖して卵巣の中に経血が溜まってしまうことが原因になります。
放っておくと悪化して卵巣がんになってしまう可能性もあるため、40歳以上で直径4センチ以上の腫瘍がある患者様は手術で摘出しておいた方が良いでしょう。
悪性の卵巣腫瘍の場合
子という遺伝子異常が原因だと言われております。身内の中に卵巣がんだけではなく、乳がんや大腸がんにかかったことがあるという方がいる場合には、リスクが高まります。
■検査と診断の方法は?
卵巣嚢腫の検査というのは、まだ初期段階の小さな腫瘍の場合と、すでに腫瘍が大きくなってしまっている場合では有用な方法が異なります。
小さな腫瘍の場合
・経腟超音波検査
腟のなかに超音波プローブという細い管を挿入して卵巣を近いところから詳しく観察することが出来る検査方法です。自覚症状が無いけれども、すでに小さな腫瘍が出来ているというケースも多いので、早期発見するためにはこの検査が欠かせません。
大きな腫瘍の場合
・経腹超音波検査
下腹部の表面から超音波で観察する検査方法です。卵巣嚢腫が直径15センチを超えるような大きい場合や、腹水が溜まっている場合や腹膜播種(ふくまくはしゅ:胃がんが胃壁を突き抜けて、腹膜に付着して大きくなったもの)を伴う卵巣がんになっているという場合に有効です。
さらに、卵巣嚢腫にはいくつかの種類があるので、特定するためにCTやMRIを使うこともあります。
何より大切なのが、発見された腫瘍が良性のものか、悪性のものかを判断するための検査です。
良性か悪性なのかを100パーセントしっかりと判断するためには、手術で腫瘍を摘出した上で、顕微鏡を用い腫瘍細胞を調べるという病理検査が必要となります。
一般的には、手術をする前の段階で一つの目安として腫瘍マーカーを使って判断を行ないます。
■どんな治療法がある?
卵巣嚢腫はすぐに手術をして摘出しなくてはならないというわけではありません。良性であり、特に症状が無いという場合には治療をせずに様子を見ることも多いのです。
ただし、定期的に検査を受けていただき腫瘍が大きくなっていないかどうかを確認することは必要です。
手術をするかどうかは、症状や、腫瘍の大きさ、種類、患者様の年齢、妊娠や出産経験、今後出産を希望するかどうか、などによって治療方針を決めていきます。
手術をするかどうかの判断基準をまとめると・・・
・症状
・腫瘍の大きさ
・腫瘍の種類
・患者様の年齢
・妊娠や出産経験
・今後出産を希望するかどうか
手術方法のご紹介
・腹腔鏡手術
良性の卵巣嚢腫であり、腫瘍のサイズが直径10センチ以下と小さい場合には、腹腔鏡手術が用いられます。
手術の進め方は、
まずお腹の数か所に小さな穴を開け、炭酸ガスを入れ膨らました上で腹腔鏡という内視鏡を穴から挿入します。
お腹の中の状態がモニターに映し出されるので、それを見ながら他の穴から挿入した器具を使って腫瘍を摘出するという手術方法です。
腹腔鏡手術の場合には、傷はとても小さくて痛みも少なく、入院期間や回復時間が短く済むといった特徴があります。
・開腹手術
良性の卵巣嚢腫であっても、直径10センチを超えるような大きいものの場合や、悪性腫瘍の可能性がある場合には開腹手術を用います。
お腹を8センチから10センチ程度切開し、腫瘍を摘出するという手術方法です。
また、状態によっては腫瘍部分だけではなく卵巣や卵管(付属器)を摘出するケースもあります。